ニキキョ

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「夜のすべて」を聴いて感じたこと

夜のすべて

夜のすべて

  • 思い出野郎Aチーム
  • R&B/ソウル
  • ¥2000

 

バンドは個人経営の飲食店に似ている。
まずはジャンルがあって、店の雰囲気があって、味の良し悪しがある。
二つの大きな違いは価格設定が飲食の場合は差が激しいが、音楽の場合はどんな内容であってもほぼ同じくらいの金額で手に入れることができるということ。

また味の良し悪しというのは、バンドであれば、声、メロディ、アレンジ、演奏力の総合が当てはまると思う。ただ一概に味と言っても、繊細な出汁からジャンキーな旨味まで色々あるのであって、どれを好むかというところは受けて側に委ねられる部分も大いにあるだろう。


そう言った観点から見た時、「思い出野郎Aチーム」はどんな店なのだろうか。

まずは名前、これは完全に警戒する名前であり、下手すると地雷店である。いろんな店の看板が並んでいた時に、とにかく最初に「思い出野郎Aチーム」という店に入る人は何人いるだろうか。。

そして、その緊張感のまま扉を開けたらどうだろう。少し暗めの店内に、若めのおっさんがたくさん突っ立っているのである。なんなら厨房からは湯気がスチームが出ている。ここはむしろ、信頼が置ける要素かもしれない。現に大所帯のバンドは当たりの可能性も高く(あくまでも自分の経験則)、ここは一概になんとも言えないところ。

そして席に座って料理を注文してみる。
口コミサイトの評価が何であれ、自分が美味しいと思えばそれでいいので、聴いた人が好きなように感じてもらうしかない。

なお、私の所見は以下のとおり。

この「夜のすべて」というアルバムは、ドラム、ベースを中心に曲の演奏ができるだけ熱くならないことが、アルバムを通して徹底されているよう感じた。例えば、ドラムのスネアはできるだけタイトに鳴らされており、ベースも非常に冷静である。管楽器も力強くというよりも、曲にうまく添うようなアレンジになっている。
一方で、声質は熱い、というか暑い。なんならダミ声である。
この対比が、今回のアルバムではとても効いている。冷たさと熱さのバランスが最高だった。

この対比は一つの発明じゃないだろうか(昔のソウルやファンクに似たような手法があるかもしれないが)。

この点は過去のアルバムから比較しても意識されていたように思う。



そして歌詞がとてもスッキリしている。
キャッチコピーと似ていて、伝えたいことは大体一つだけ。文学的では決してないが、伝えたいことがはっきりしており、それがとてもうまく機能している。
特に「ダンスに間に合う」は白眉。
とにかくダンスに間に合うのである。後悔してようが、辛かろうが、ダンスに間に合う。
しかもよくよく考えれば、ダンスはクラブやライブハウスに行かなくても、その気になればどこでもできる。
だから、僕も貴方もいつだって、信じられないような嫌なことがあっても、ダンスに間に合う。あきらめなければ。

他の曲も、早退する、とか、アホな友達とか、とにかくわかりやすい。平日という現実から、夜に向かって逃避する。そこで起こる出来事、起こって欲しい理想の夜のことを描いている。アルバムの最後は暗い扉を開けてまた平日が始まってしまう。

 

一瞬大味なようで、曲がすごい整理されている。私はすごいいい店を見つけてしまったような気がしている。